卒業インタビュー:石井沙希子
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フィンランドのタンペレ音楽院へカンテレ留学中のはざた雅子門下生の一人 石井沙希子が、2013年5月末に卒業を迎えました。

タンペレ音楽院

2007年よりカンテレを習い始め、2009年の夏にはフィンランド東部の町クフモにて開催された第1回国際カンテレキャンプに参加。翌2010年8月よりタンペレ音楽院に留学、コンサートカンテレをEva Alkula、Eija Kankaanranta、また15弦カンテレをMarja Turuの下で学びました。

日本人としてはもちろん、カンテレ専攻での同音楽院卒業生は彼女が1人目。確かな技術を身につけ、今後更なる飛躍を目指す彼女に、4年間の学生生活について話を伺いました。

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■カンテレとの出会い
当時習っていたフィンランド語の先生から、はざた先生のコンサートのチラシを見せてもらったのがきっかけです。結局演奏は聴きに行けなかったのですが。
私はクラリネットで日本の音大を卒業していますが、何か別の楽器、特に弦楽器を始めたいと思っていたこと、もともと北欧の音楽に興味があったことから、フィンランド語の先生にお願いしてはざた先生を紹介して頂きました。体験レッスンではざた先生のお家へ行くまではカンテレの音を聴いたことがなかったのですが、レッスンに行く前から既に習い始めることは決めていた気がします。

■留学を決めたきっかけ
カンテレ奏者Eva Alkula(エヴァ・アルクラ)さんの演奏を聴いたこと、ですね。はざた先生からお借りしたEvaさんのCDに収録された現代曲がとても印象的でした。
2008年の夏、第1回国際カンテレキャンプ(クフモ)が開催されることを聞き、参加申込みをした頃にEvaさんが来日されました。直接その演奏を目の当たりにした時には、留学を決意していたのだと思います。
クフモでレッスンを受けた時にEvaさんへ留学したい旨を伝えると、良い先生がいるから、とタンペレ音楽院を薦めて頂きました。3ヶ月後、北海道で開催されたカンテレキャンプでお会いした際に入試の課題曲の楽譜をもらい、そこからはもう受験に向けてただ練習に集中するだけでした。

■留学に向けての準備
Evaさんがメールで色々とアドバイスを下さったのですが、やりとりは全てフィンランド語。受験申込みの書類も全てフィンランド語。もちろん、筆記試験や面接もフィンランド語。言語が苦手なので、フィンランド語の勉強には苦労しました。
実技試験で弾いた曲は、課題曲「5つの即興曲(Viisi impromptua)より Ⅱ」(T.Elovaara)と、「教会の鐘は何を鳴く(Mitä soivat kirkonkellot)」(M.Kontio)の2曲。後者は自由曲でEvaさんが選んでくれたのですが、今振り返ってみても「よく弾いたなぁ」と思うくらい、当時の自分にはレベルの高いものでした。

■いざタンペレへ
日本を発つ時、片道で高い航空券を買ったからか、座席がビジネスクラスにグレードアップされて、ウェルカムドリンクでシャンパンが出てきたんです。幸先良いスタートでした(笑)。
ただ学生用のアパートに空きがなく、住む家がまだ決まっていない状態だったので、最初の1ヶ月はEvaさんのご両親の家に滞在させて頂いていました。
フィンランドでの生活は初めてでしたが、国が違うから日本と違うのは当たり前という気持ちでいたので、文化の違いに戸惑うようなことはありませんでした。
タンペレは大きくもなく、小さくもなく、住み心地が良い街です。森や水辺の自然が多いのも気持ちが良いですね。近所でウサギやルサッコ(野うさぎの一種)、かる鴨やハリネズミに会うこともあります。

■授業
これまでに受けた授業は、音楽理論、音楽史、ソルフェージュ、アナリーゼ、編曲、OA一般操作といった日本の音大でも受けてきたような科目の他、ディベート(討論)、起業検討論(グループごとに起業計画を発表しあう)、相互作用論(緊張した時にどのように対処するか等を話し合う)といった、フィンランドならではの科目もありました。
実技は、コンサートカンテレ(クラシック)が主専攻、副専攻としてコンサートカンテレ(フォークミュージック)、15弦(11+4弦)カンテレ、他に室内楽やピアノ伴奏などを受講しました。
フィンランドの音楽学校では、ソロや同じ楽器同士だけではなく、他の楽器とのアンサンブルも積極的に行われます。私もこれまでにフルートやアコーディオンと一緒に弾く機会がありました。特にアコーディオンとのアンサンブルは音の相性も良く、とても楽しかったです。
授業は全てフィンランド語で、当然、レポートなどもフィンランド語で書かなければいけません。フィンランドのレポートは、書式や形式も細かく決められているので、その説明書きを読むだけでもかなり苦労しました。
どの授業からも多くを学びましたが、特にためになったのは編曲の授業でしょうか。これから自分が演奏していく中で、カンテレ用にアレンジすることは不可欠になってきますので。

■グレード試験
カンテレのグレード試験は、1/3→2/3→3/3→D→C→B→Aというようにレベル分けされていますが、レベルがあがってくるとC1試験、C最終試験、という風に段階的に受けるようになります。
Cは音楽院の卒業レベル。Bは更に上の職業学校やシベリウスアカデミーでの受講レベルで、Aはシベリウスアカデミーソリスト科のレベルです。
学校やレベルにもよりますが、試験官が3~4人、成績は3点制(1、2、3)で、基本は公開形式です。内容は、初見(1曲)、スケール(指定された調の音階・カデンツを弾く)とレベルに応じた曲の演奏で、全部で大体30~40分ほどでしょうか。
私は5月末の卒業試験でCまで合格したことになります。

■練習
練習は主に学校の練習室か、自分の家ですが、今年の3月まではルームシェアだったので、自宅での練習は気を使いました。今は一人部屋ですが、時間帯の考慮はどうしても必要なので、大体は学校で練習しています。
学生は皆学校の鍵を持っていて、8:00~23:30の間は空き教室を自由に使うことができるので、毎日のように朝から学校に篭っていました。
朝から練習に来る生徒は大体決まったメンバーなので、練習しながら隣の部屋の音が聞こえると「あ、あの子も頑張っているな」と、お互いの音を励みにしていました。
普段は1日4~6時間、試験前や課題が多い時期は1日8時間は練習していましたね。練習に疲れたときは、大好きなコーヒーを飲んだり、ちょっと外に出て散歩したりしてリフレッシュしていました。

■卒業前のコンサート
卒業の年の課題として、卒論を書くか、コンサートを行うかを選択します。私はコンサートを選択し、3月に行いました。一般のお客様も招いての公開コンサートで、30分程のプログラムで自由に選曲・構成を行い、終了後に簡単なレポートを提出します。
日本の曲を中心に、コンサートカンテレと15弦(11+4弦)と歌を披露しました。曲の間に話をしたかったのですが、準備期間が短かったこともあり、プログラムを用意して最初の挨拶後は演奏のみ、という形にしました。宣伝を全くしなかったのですが、十数名聴きにいらしてくれ、暖かい反応を頂き嬉しかったです。

■卒業試験
全てのレポートを提出し終え、最後に残ったのが卒業試験でした。
演奏したのは、シベリウスの「即興曲」、ハープのための「六段の調べ」、カンテレのための現代曲、モーツアルトの2台のピアノのための曲など。
試験前にはEvaさんがエキストラレッスンをして下さったりと、サポートが心強かったです。一緒にアンサンブルを弾いてくれたアコーディオンの子にも本当に感謝しています。
とにかくここまでたどり着けたことが嬉しくて、最後の曲を弾ききった瞬間、「ああ、終わったんだ」と感慨深いものがありました。
満足のいく評価も頂き、レポートも全て通って卒業が決まったときは本当に嬉しかったですね。卒業式では日本と同じように一人一人に卒業証書が渡されました。

■4年間を振り返って
4年間で一番印象に残っているのは、やっぱり最後の卒業試験ですね。とにかく必死でした。ひとつのことをやり通したことにより、精神的にも強くなった気がします。
実技、理論共に、担当の先生方には本当にお世話になりました。実技でお世話になったEvaさん、Marjaさんのカンテレの音は、私の目指す音のひとつでもあります。
また、留学したことにより、様々な曲と出逢うことが出来ました。私はテクニックを要する曲を、弾けるようになるために練習していく過程が好きなのですが、その練習していく過程によって成長を感じ、成長を感じることが自信に繋がるのではないかと思います。
自分が留学を決めたとき、学校側も受入体制が整っていなかったこともあって、先生と一緒に模索しながら前に進んできました。そういった意味で、ひとつの留学モデルを築けたのではないかな、と思っています。今後も留学を志す日本人が後に続いて欲しいですね。
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後々は演奏活動とあわせて、カンテレを教える活動をしたいと望む彼女は、更なる向上を目指し、今後もフィンランドで学ぶ道を選びました。
何より努力し続ける才能を持つ彼女、ますますの活躍に心からのエールを!

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